田中ロミオ「人類は衰退しました」

人類は衰退しました (ガガガ文庫)

人類は衰退しました (ガガガ文庫)

ライトノベルではあるけれどラノベではないという作品。ひたすらに空中五センチを漂うような浮遊感に、毒の無いほんわかした笑い。これって本当にロミオ?って思うくらいに予想を外された。ネタバレはなるべくしないでおこうと思いますが、この作品に限ってはネタバレってほとんど意味が無いような気がします。
主人公は女の子………って、今考えてみたらこの子は名前があっただろうか?無いような気がする。人数的に言えば人間の登場人物の比率は圧倒的に少ないし、妖精さんは固体識別に意味を見出さない主義らしいし。ともかく、その「わたし」の一人称によって物語りは綴られる。しかし、しかしである。特に物語の冒頭から前編の中盤までに置いての語り口、正直波が無さ過ぎる。人類が緩やかに衰退して、そしてだからといってもう一回覇権を取り返そうなんて思っちゃいない気楽さ、その辺が出てると言えば出てるんですが、どうやらロミオ氏は書いている途中でも脱線をしまくっていたようなので、単純になにも考えずに書いた結果なんだろうと。だから最初のほうはやや面白みに欠けます。
しかし。だがしかし。妖精さんが登場してからの面白さと言ったら!というか妖精さんが全てだ、この小説は。考えてみればこれってラノベのはずで、ラノベといったら男女のあれこれであったり萌え要素であったりするわけなんですが、作中には萌えられる部分なんて断固として一つもない。本当に。しかしそのかわり、究極的に可愛らしい生物を延々と見続けているような、そんな心地よさがあるのです。妖精さんの会話。ロミオ氏はこういう風に日本語で遊ばせたら右に出るものはいないくらいにすばらしい物を作り出すなあと。ただ、会話を作り出しているのは妖精さんですから、やっぱ萌えでは無いんですがね。
ラノベだと思って読んではいけない。童話を読むような感覚で読んだら、すごく楽しめると思います。続き読みたいなあ。出るといいなあ。